23Sep
精神医学や生物学の世界では、「遺伝」と「環境」が私たちの心と体にどのように関わっているのか、長年にわたって議論が続けられてきました。
かつては、生まれ持った設計図(遺伝子)が運命を決める「遺伝子決定論」のような見方が主流の時代もありました。しかし、近年の科学は、それとは異なる新しい仕組みを明らかにしています。
それが、「エピジェネティクス(後生遺伝学)」と呼ばれる領域です。
私たちの体の中で、遺伝子と環境がどのように関わり合っているのか、その仕組みについてみてみましょう。
DNAと遺伝子:不変の「設計図」
生物の体や脳の基本構造を規定する「DNA」と「遺伝子」は、よく1冊の本に例えられます。
・DNA・・・文字が記されている「長い本」そのもののこと
・遺伝子・・・その本の中に印刷された「具体的な情報(文章)」
人によってこの本に印刷されている文章(塩基配列)は少しずつ異なり、それがストレスに対する感受性の高さや、体質などの「個体差」として現れます。
この本に印刷された文章そのものは、生まれてから生涯変わることはありません。
エピジェネティクス:後天的な変化
本に印刷された文章は一生変えられませんが、生物には「その文章のどこを読み、どこを読まないか」を調節するシステムが備わっています。これがエピジェネティクスです。
この仕組みを先ほどの本に例えるなら、「日々の環境や刺激によって、特定のページに付箋を貼って読みやすくしたり、ページをクリップで留めて読めなくしたりする構造」といえます。
付箋がついたページは、遺伝子のスイッチが「オン」になり、その機能が強く働きます。
クリップで留められたページは、遺伝子のスイッチが「オフ」になり、その機能は抑えられます。
遺伝子という設計図が100%同じである「一卵性の双子」であっても、成長すると体質や気質に少しずつ違いが出てきます。これは、生活環境の違いによって「付箋」や「クリップ」の位置が徐々にズレていき、実際に働く遺伝子の場所が変わるためであることがわかっています。
付箋やクリップの位置を変える「環境」
この付箋やクリップの位置に影響を与えるのは、日々さらされる外部からの刺激や、生活環境の積み重ねです。具体的には、次のようなものが挙げられます。
・睡眠や栄養の摂取状態
・日常的に受けるストレスの強さや期間
・過ごしている気候や物理的な生活環境
・適切な医療介入(服薬や各種療法)
この付箋やクリップは、自分の意志でねらって張り替えられるものではありません。また、遺伝子つまり本に印刷された文章そのものも、生涯にわたって変わることはありません。
エピジェネティクスが示しているのは、自分の力で遺伝子を無理にコントロールするということではなく、「置かれた環境や受けるケアに合わせて、体というシステムが、本の読み方を自然とちょうどいい形に整えていく」ということです。
ですから、「自分ががんばって変わらなければ」と気負う必要はありません。過ごしやすい環境を選び、適切な治療を重ねていくことで、私たちの体は、その環境に合わせて本の読み方を自動的に調整していく仕組みを、もともと持っています。









