4Mar
「GLP-1受容体作動薬」は、もともと糖尿病のお薬として開発されましたが、近年、心血管系や腎臓の保護効果、脳機能の低下を抑える効果など、多様な効能を持つことが研究で分かってきました。
今回は、このお薬を中心にお話ししていこうと思います。
重要なはたらき:慢性炎症に対抗する
「GLP-1」というのは、わたしたちがもともと持っているホルモンの一種で、血糖値をちょうど良い高さに調整するはたらきがあります。「GLP-1受容体作動薬」は、この「GLP-1」というホルモンと同じような働きをするお薬として開発され、糖尿病の治療に使われていました。
その後、食欲をはっきりと抑える効果や体重を大幅に減少させる効果もあることが分かり、肥満症の治療薬として用いられるようになりました。
さらに現在までに、心臓や脳の血管、腎臓を保護する効果、脳の認知機能に関わる効果など、全身にわたる効果があることが研究で分かってきています。
このような全身に対する効果を発揮する背景には、このお薬のもつ「抗炎症作用」が重要な鍵となっているのではないかといわれています。
慢性的な炎症と病気
炎症は、身体が外部からの刺激や異物に対して防御するときに起こる反応です。熱が出たり、赤く腫れたり、痛みが生じたりします。病原菌が排除されたり、傷ついた組織が修復されたり等、身体がいつも通りの状態に回復したとき炎症は治まります。
炎症反応は、細菌やウイルス感染、外傷だけでなく、ストレスや身体に合わない食事、過剰な脂肪、喫煙などでも引き起こされます。
感染や外傷による炎症は、発熱や腫れ、痛みが伴いはっきり自覚できますが、ストレスや生活習慣による炎症は、疲労感や集中力の低下、関節痛、消化不良など「なんとなく」というかたちで現れ、長期化しやすい特徴があります。
また、通常の炎症反応は、外部からの病原菌などの異物と闘ったり、傷ついた組織を修復したりしますが、長期化した炎症は、自らの健康な組織を傷つけ、修復を妨げる特徴があります。
自分の身体にダメージを与え続けることとなり、これが老化や様々な慢性疾患につながると考えられています。高血圧や糖尿病、脂質異常症などの慢性疾患は複数の疾患を併発しやすく、総称して「生活習慣病」と呼ばれています。
生活習慣病は動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞などのリスクを高めるため、病気のケアが非常に大切になってきます。
「GLP-1」の効能
「GLP-1受容体作動薬」は、糖尿病をはじめとする様々な慢性疾患に対し効果を発揮し始めています。
すでに米国の成人の8人に1人が服用したことがあるそうで、糖尿病のある人が併発しやすいとされる心臓や血管系、腎臓の疾患に対する予防効果や進行抑制効果があることが研究で分かっています。
また最近では、認知症の方の認知機能の低下を抑えられたという研究もあり、脳の神経系への効果も注目されています。
「GLP-1受容体作動薬」は、ある特定の病気に効く、というより、炎症に対してアプローチし慢性疾患全般に対抗できる薬のように思います。
慢性疾患によりリスクが高まる心血管系や腎臓の疾患に対しても予防効果が報告されているため、生活習慣病に対して総合的なケアが可能になると考えます。
今後ますます良い治療法として応用されることと思います。
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