11Oct
摂食障害は、「痩せたい」気持ちから、極端に食事を控えたり、反対に多くの量を食べてその後吐き出してしまったりする病気です。生きていくのにギリギリの体重にまで痩せてしまうケースも少なくなく、命に関わる病といえます。しかし、治療法は確立していないというのが現状です。
かつて私が総合病院に勤務していた時、摂食障害の患者さんを全て担当していた時期がありました。そこでのある患者さんの出来事を、今でも覚えています。
食べることをどうしても拒否してしまう摂食障害の患者さんは、命を繋ぐために、点滴で最低限の栄養とエネルギーを補給することが必要です。彼女も入院している患者さんのひとりでした。
認知の誤り
彼女が、骨と皮だけに痩せ細った自分の腕を見て、「まだ太っている」と言っていたのを聞きました。私は、そうではないことをなんとか彼女に分かってもらおうと、看護師さんを呼びました。そして、看護師さんの腕を彼女の腕の隣に差し出してもらい、彼女にはっきりと比べてもらったのです。そこには、誰の目にも明らかなほどの違いがあります。しかし彼女は、「私はまだ太っている」。
この出来事から、摂食障害の患者さんには、ほんとうに自分の姿が太ってみえているのだ、と強く思わされました。私たちがみているようには、彼女たちは認識していないのです。摂食障害は、「認知の誤り」の病ともいえるでしょう。
摂食障害の患者さんは、自分が病気であるという認識も薄いのが特徴です。
病気に罹っていることを自覚している状態を、「病識がある」といいます。摂食障害は、病識を持つことが難しい病といえます。
病識がないことが特徴の、最も代表的な疾患が、統合失調症です。統合失調症には、幻覚や幻聴など、ないはずのものを認識してしまう症状があります。今見ているものや聞いているものが、本来存在しないものだと気付くのは、大変難しいことです。
こういった疾患の治療で、必要不可欠かつ最大の難関だといえるのが、患者さんに病識を持ってもらうことです。しかし、「認知の誤り」を正したり、病気だと気づかせたりできる方法は、今のところまだ確立されていません。
ただそれは、可能性がないということでは決してありません。
次回の記事に続きます。
「痩せなければ」から自由に②